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2025.12.12 UPDATE!
WELL-BEING for children

AI×ロボットが叶える「WELL-BEING」な社会
─パラマウントベッドと東北大学による
適応自在AIロボットの研究─(前編)

ロボティクス研究者※が描く将来の介護ロボット像とは。パラマウントベッドが自社開発した立位移動支援ロボットMobyとその開発者を訪ねて、東北大学ロボティクス専攻の研究室と、隣接する実証施設「青葉山リビングラボ」にお邪魔しました。開発中のAIロボットや、研究にこめる想い、東京やパリで行った実証イベント『スマーター・インクルーシブ・ダンス』についてのインタビューとレポート、その前編です。

ロボティクス:単に「ロボットを作る技術」だけでなく、ロボットの設計・制御・知覚・知能・社会的活用などを総合的に扱う技術分野

筋斗雲のような存在。介護ロボットの研究者が描く、人生に寄り添うAIロボット。

「介護ロボット」という言葉を聞いて、どのようなイメージが浮かぶでしょうか?
完全なヒト型の介護士アンドロイド。あるいは、もう少し目的に特化し、移動や体位変換、トイレ、入浴など、日常の行動を支援するために作られた介助機械。これには自律走行可能な車いすや全自動運転の電動ベッドなども含まれるかもしれません。
また、部分的に体幹や関節を支持したり動きを補佐してくれる補助機械、つまり身体補強パーツみたいなもの。
物理的な補佐だけでなく、介護や身の回りの相談に乗ってくれる、相棒や話し相手のような存在。
あるいは、介護を受ける人ではなく介護する人を支援する機械やパーツ。

「介護ロボット」という言葉からだけでも、人との関わりやシーンにおいてさまざまなイメージを持たれると思います。共通するのは「機械」っぽいイメージが浮かぶこと。そして、生活において、ある程度の「存在感」があるということ。

しかしロボティクスの研究者が描く「人に寄り添うロボット」の将来的なイメージは、もう少し柔らかで手触りの優しいものでした。

今回の取材先、東北大学青葉山キャンパスは、仙台のシンボル仙台城から続く明るい森の中にあります。
その緑あふれるキャンパスの一角。
パラマウントベッドから提供された立位移動支援ロボットMoby(モビー)を訪ね、工学研究科ロボティクス専攻の研究室と、隣接する「青葉山リビングラボ」で、介護の分野にAIロボットの研究開発で取り組まれている研究者にお話を聞きました。

パラマウントベッド経営企画本部のプロダクトマーケティンググループシニアマネージャーであると同時に、東北大学工学研究科の客員准教授である初雁卓郎さんは、将来の介護ロボットのイメージについて、こう話します。
「ロボットという一般的な言葉のイメージよりは、もっと柔らかくて変幻自在なものをイメージしています。もちろん複雑な機械であることは間違いがないのですが、接する人がそういうことを意識しなくていい、気がついたら必要な時に助けてくれている存在。さらに理想を言えば、人間が、支援されているという感覚なしに、あたかも自分が自分の体のように何かの行動や挑戦をしている、そういう未来を考えています」
実は今回の主役Mobyも、初雁さんのこのような想いから生まれたロボットです。

同じ東北大学にて、ロボティクス研究の指揮を取る工学研究科ロボティクス専攻の平田泰久教授もこう付け加えます。

「“ロボット”という言葉自体、皆さんそれぞれのイメージがあると思います。そもそもロボットの研究者からすると、センサーとアクチュエーターとコントローラーがついていれば形はどうであれロボットと考えるので、最新の洗濯機だってロボットなんです。逆に皆さんが思うロボットと言えば、やっぱりヒューマノイド(鉄腕アトムやHONDA ASIMOなどヒト型のロボット)を想像すると思います」
ヒト型にはヒト型の利点や意義がある、ということを前置きしつつ、平田教授は続けます。
「もし多くの人が『人間の代替となる機械』としてロボットをイメージするんだとしたら、我々研究者が理想とする将来のロボット、特に介護ロボットをはじめとする生活支援ロボットは、少し違うかもしれません。形やサイズ、人との関係性がもっと多様で柔軟で、なんとなく体や心のまわりにふわふわ存在する『雰囲気』のようなもの。存在感としては、ふわふわした小さな『雲』のようなものを我々はイメージしています」

平田教授は続けます。
「私たちは、イメージする未来のAIロボットやそのシステムに、Nimbus(ニンバス)という名前をつけてそう呼んでいます。“雲”を意味するラテン語で、筋斗雲(Flying Nimbus)みたいに柔らかくて、いつでもどこでもやってきて、自分の意のままに自然に行動できる、そんなイメージです」

たくさんの機械やセンサーに囲まれたロボティクスの研究室で「筋斗雲」が出てくるとは思いませんでした。

今回は、少し未来のウェルビーイングの話。
ロボティクス研究者が描く介護の未来の姿と、その実現に向けて現在されている研究について、初雁卓郎さん、平田泰久教授にお話を伺いました。

家具や日用品が配置された部屋で、移動支援ロボットに乗る初雁(はつかり)さん
立体移動支援ロボットMoby(モビー)のデモンストレーションをする
初雁卓郎さん(パラマウントベッド経営企画本部 / 東北大学客員准教授)。
場所は、日常の部屋を再現した東北大学「青葉山リビングラボ」の一角
研究室でインタビューに答える平田泰久教授
東北大学工学研究科ロボティクス専攻 平田泰久教授。
平田教授は内閣府ムーンショット型研究開発プログラム
「活力ある社会を創る適応自在AIロボット群」のプロジェクトマネージャーでもある

パラマウントベッド技術開発本部が開発した立位移動支援ロボットMoby(モビー)

その名は「Moby(モビー)」。
人が「立ったまま」移動するための介護支援ロボットです。
このロボットを開発したのはパラマウントベッド技術開発本部。開発にあたったのが今回取材をした初雁さんです。
ベッドや椅子から立ち上がり、立ち上がった姿勢のまま行きたいところへ移動し、目的の場所(トイレなど)に座る。その一連の動作の支援を目的として開発されました。
上の写真で初雁さんが乗っている青い機体は、ムーンショットプロジェクトの中で製作された第三世代にあたる最新型です。研究者たちはペットや相棒のような親しみを込めて「Moby-3(モビースリー)」と呼んでいました。

Mobyは、介護分野における内閣府ムーンショットプロジェクト※のプロジェクトマネージャーである東北大学工学研究科の平田泰久教授と研究チームの活動に共感し、パラマウントベッドから同研究室へ、介護ロボット研究用の機材として提供されました。同研究室と、隣接する介護ロボットの評価・効果検証を実施する「青葉山リビングラボ」を中心に、国内外の研究機関・協力施設と連携しながら、さまざまな実証実験やイベントにも参加しています。

ムーンショット型研究開発制度:内閣府が策定する研究開発推進の枠組み。米国の「アポロ計画」─1960年代に「10年以内に人類を月に着陸させて帰還させる」という極めて挑戦的な目標を掲げたプロジェクト─に由来し、困難だが実現できたときの成果が大きいプロジェクトの創出と支援を目的とする。今回取材した介護ロボット研究は、ムーンショット目標3「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」プログラムのひとつ。

Moby(モビー)の説明をするスタッフと実機に乗って移動する来場者
大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)で展示された立位移動支援ロボットMoby(モビー)。
難しい操作が必要なく、誰でも簡単に“立った姿勢で”移動ができる
Moby初号機(左)と最新のMoby-3(右)
左:Moby初号機(2016年頃) 右:最新のMoby-3(2025年、大阪・関西万博)
特徴的な足元の形状や重心の考え方、手すりなどの基本形状は初号機の段階から一貫している

Mobyの最大の特徴は、なんといっても「立った姿勢」のまま移動ができること。
小さなタイヤのついた土台には両足を乗せる部分が切り欠かれていて、搭乗者の両足を乗せやすい形状。土台から上に向かって頑丈そうなバーと手すりが取り付けられており、搭乗者はバーにもたれかかるようにして乗り込み、立った姿勢のまま移動します(下の写真参照)。
慣性センサーで搭乗者の体の動きを検出して行きたい方向へ進むので、ジョイスティックや操作パネルでの操作に加え、慣性センサーで搭乗者の体の動きを検出して行きたい方向へ進むこともできます。カメラと画像処理技術による空間・障害物認識システムと合わせて、「自動運転」が可能なロボットです。

ベッドからMoby(モビー)に乗り移り、立った姿勢のまま室内を移動する
ベッドやローテーブルが配置され、床も家庭用のフローリングが敷かれている
ベッドからMobyに乗り移り、トイレまで移動して便座に座るまでの連続写真。
立ち上がり、体重を預けて立位のまま移動し、トイレに腰掛ける。
Mobyがベッドやトイレのすぐそばまで接近していることに注目。
重心や足回り・手すりの形状・胸をあずけるソフトパッド・
駆動輪の位置等が計算されており、一連の動作でも安定している

AIロボット技術を用い、世代や障がいの有無を気にすることなく一緒にダンス!

Mobyの詳しい説明の前に、Mobyが参加した素敵なイベントを紹介します。
2024年9月8日フランス、パリ。
2024パラリンピックの閉会式直前に、ヴェルサイユで『スマーター・インクルーシブ・ダンス』というミュージカルショーが開催されました。会場はヴェルサイユの旧郵便局跡地に整備されたLe Club 2024 de Versailles、パリパラリンピックの公式ファンゾーンです。

『スマーター・インクルーシブ・ダンス』は、障がい者や健常者、ミュージシャンが同じステージでダンスを披露する作品です。麻痺がある人も転倒リスクがある人も、同じステージ、同じ音楽で、一緒にミュージカル作品に参加します。
健常者やミュージシャン、車いす型ロボットの演者の中に、立った姿勢のままMobyに乗って踊る人の姿が。
MobyもAIロボットの重要な一員としてこのショーに参加しました。Mobyの立位移動というユニークさが作品に華を添え、会場は大きな拍手で包まれていました。

ヴェルサイユ旧郵便局跡地の屋外で披露されるダンス。障がい者はAIロボットと共に、健常者と同じステージで踊っている
パリ、ヴェルサイユにて開催された『スマーター・インクルーシブ・ダンス』。
中央で踊っている白い機体がMoby
スマーター・インクルーシブ・ダンスの本番風景と練習風景
『スマーター・インクルーシブ・ダンス』の様子。右下はパラマウントベッド本社での練習風景。
千葉県のリハビリテーションセンターや東京の八重洲ミッドタウンでもイベントが開催された

『スマーター・インクルーシブ・ダンス』とは、AIロボット技術を用いて、世代の差や障がいの有無・程度を気にすることなく、国境を越えて全員が同じステージで一緒にダンスを楽しむための研究開発プロジェクトのことです。東北大学、パリ・サクレー大学、国立長寿医療研究センター、パラマウントベッド株式会社等の合同チームによる取り組みで、パフォーマンスのメンバーやサポート、技術協力として様々な企業や団体が関わっています。
これまでに、国内外のAIロボット技術の研究者はもちろんのこと、身体表現の専門家や理学・作業療法士、介護システム開発会社の技術者らが強力な協力関係を結ぶ “Yes We Dance!” プロジェクトを発足させ、研究開発を進めながら、ライブパフォーマンスをフランス、日本、カナダ、南アフリカで実施してきました。
この『スマーター・インクルーシブ・ダンス』は、「すべての人々が積極的に参加できる高い包摂性」と「特別なチューニングを必要としない福祉介護機器によるユーザビリティ」が評価され、第11回ロボット大賞優秀賞(介護・医療・健康分野)に選出されました。

Mobyはジョイスティックなどの操作デバイスだけではなく多様な操作方法が可能であり、搭乗者の体の動きをセンサーが感知して動くAIロボットとして、両手が自由に使えることはスマーター・インクルーシブ・ダンスでの表現力の向上に大きく寄与します。立った姿勢のまま参加できることに加え、両手が自由に使えることも、表情豊かなダンスの表現に華をそえる重要な要素でした。

ではこのユニークな「立った姿勢」による移動支援ロボットには、 どのような開発の意図があったのでしょうか?
後編では開発者初雁さんへのインタビューを中心に、開発時のエピソードやMobyを生んだ「想い」についてレポートします。
後編へつづく)