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2025.09.03 UPDATE!
WELL-BEING for children

低出生体重児のカンガルーケアを
安全にサポートする専用チェア
OyaCoco(おやここ)」

パラマウントベッドが2024年11月にリリースしたカンガルーケアのためのサポートチェア「OyaCoco(おやここ)」。お母さんが赤ちゃんを抱っこし、肌と肌を触れ合いながらケアをする、そのためにデザインされた製品です。カンガルーケア、そしてOyaCocoについて紹介します。
(開発チーム“Tsubaki Project” の紹介記事はこちら

カンガルーケアとは

“カンガルーケア” という言葉をご存知でしょうか?
1970年代に南米コロンビアの病院で考案された、新生児のためのケアの方法です。
主に医療現場で、早産児や低出生体重児※に対して行われるケアで、お母さんが赤ちゃんを胸に抱き、肌と肌を直接触れ合わせそのまま1時間程度過ごします。赤ちゃんを裸またはオムツのみの状態で抱っこし、毛布や衣服でそっと覆うことが多いようです。
その様子が、まるでカンガルーがお腹の袋(育児嚢)で赤ちゃんを温めながら育てる姿のようだったことからこの名が付けられました。

WHOが1996年に「正常出産のガイドライン」で早期の母子接触を推奨し、さらに2003年には「カンガルーケア実践の手引き」を発刊したことで、日本でも認知が広まりました。
もともとはNICU(新生児集中治療室)で、生まれてすぐの赤ちゃんに対して行われるケアのことを意味していましたが、最近は単に“早期の母子接触”、さらにはお父さんも含めた“皮膚接触を伴う抱っこ” を指す言葉としても広まりつつあるようです。

※低出生体重児:早産などで2,500g未満で生まれた赤ちゃん。特に1,000g未満の赤ちゃんは超低出生体重児と呼ばれ、OyaCocoは、NICU下で呼吸管理をしている超低出生体重児へのカンガルーケアをメインの対象ユーザーとしている

カンガルーケアのイラスト。OyaCocoに座ったお母さんが赤ちゃんを抱っこしている
“カンガルーケア” をする母子のイラスト(OyaCoco製品資料より)。
お母さんが座っているのがカンガルーケアのためのチェア「OyaCoco

広い意味での(低出生体重児ではなく、正期産の)カンガルーケアには次のような効果があります。

◼︎赤ちゃんへのメリット
・体温、呼吸、心拍の安定
・ストレスの軽減(泣く時間や回数が減る)
・おっぱいを探す練習になり、はじめての授乳がスムーズになる
・免疫力が上がる

◼︎お母さんへのメリット
・赤ちゃんとの絆を感じ、愛情や愛着が深まる
・わが子の重み・動き・温かさを感じることで出産後の不安やストレスが軽減される
・育児への自信向上
・母乳分泌促進

また、“早期の皮膚接触” という意味でのカンガルーケアはお父さんが行う場合もあり、赤ちゃんの泣きやみやリラックス効果が、母親が行うのと同様に見られます。
お父さんにとっては
・赤ちゃんとの絆を感じられる
・育児への関わり意識が生まれ、自信が高まる
・育児負担を共有できる
といった効果が報告されています。

※「WELL-BEING for 〜」編集部調べ

低出生体重児のカンガルーケアを安全に、正しく行う。そのためのサポート

まだまだ日本での一般的な認知度は低いカンガルーケアですが、低出生体重児へのカンガルーケアは約7割のNICU(新生児集中治療室)やGCU(新生児回復室)で行われています。
ただし、ケアの内容や医療機関側のサポート体制、設備にはばらつきが多いのが実情です。
これまでカンガルーケアのための椅子がなく、キャンプ用のチェアや事務椅子で代用される事例が多くありました。赤ちゃんを長い時間抱っこし続けるお母さん・お父さんへの身体的・精神的負担が大きいのはもちろん、椅子の移動や保管場所の問題、消毒や清掃といった手入れの問題など多くの課題がありました。

「もっとカンガルーケアに適した環境があれば・・・」
そんな医療現場の声に反応したのがパラマウントベッドで2014年に発足した“Tsubaki Project” でした。

“Tsubaki Project”は、技術開発部と品質保証部の女性社員6名でスタートした社内プロジェクトチーム※で、カンガルーケアのサポートチェア「OyaCoco」は、彼女たちが開発・製品化したプロダクトの第2弾になります。

プロジェクトのメンバーは医療現場へのヒアリング、試作機によるデモ、学会などへの出展を重ね、2024年11月、製品化を果たします。女性だから気づける、生み出せる、そして共感できる、そんな製品やサービスを提供し続けるTsubaki Projectにとって、カンガルーケアのためのチェア「OyaCoco」はまさに“生まれるべくして生まれた製品” と表現してもいいかも知れません。

※現在は20名を超え、幅広い部署から、また男性社員も参加している。(“Tsubaki Project” について、また、プロダクト第1弾「HugHug」についてはこちら

「HugHug(はぐはぐ)」「OyaCoco(おやここ)」と、Tsubaki Project(ツバキプロジェクト)のメンバー
今回お話をお伺いしたTsubaki Projectのメンバー。
2024年発売の「OyaCoco(おやここ)」(左)、
2015年発売の「HugHug(はぐはぐ)」(右)を前に

「NICUで求められている製品」だと再認識

カンガルーケアのためのチェア「OyaCoco」の特徴を見ていきましょう。

最大の特徴がチェアの背面に取り付けられた「U字クッション」です。
抱っこをするお母さんやお父さんの両腕を支えるだけでなく、バックレストがリクライニングした状態でも自然な状態に後頭部をサポートする形状になっています。Tsubaki Projectチームがカンガルーケアの調査を行っていたとき、意外に多かったのが「腕だけでなく、頭がつらい」という声だったそうです。
U字クッションはアーム部分が横に広がり、また縦方向の取り付け位置も調整できるため、様々な体型のお母さん・お父さんに快適にフィットします。

チェア全体としては、お母さんお父さん、そして赤ちゃんが一番リラックスできる体勢になるように、バックレストとフットレストの角度が調整できるようになっています。上記のU字クッションと合わせて、長時間姿勢が崩れにくく、リラックスした安定感のある抱っこが可能になっています。

クッションの肩と腕の4箇所にある面ファスナーのループは、医療機器のチューブを固定するためのベルトです。現場に合わせて、上下左右、どの方向からでもチューブを取り回せるように工夫されています。

また、座面とフレームの隙間に差し込んで左右どちらにも取り付け可能なポケットがあります。これはスマートフォンや手鏡を収納するために用意されました。低出生体重児は直接顔を見ることもできないくらい体が小さく、抱っこしているお母さんやお父さんは手鏡越しに赤ちゃんの表情を見るのです。

カンガルーケア製品資料からの抜粋。特徴的なU字クッション、フットレストなどの機能や特徴について図示されている
OyaCoco” の特徴(OyaCoco製品資料より)

約3年にわたる開発期間を通して、開発チームは何度も医療現場へのヒアリングや試作機によるデモ、学会などへの出展を行い、その度に現場の反応や要望を聞き、試作機のブラッシュアップを繰り返しました。 改良を重ねた実機デモを体験したNICUの医師や看護師から「こういう椅子を探していた!」「他のスタッフにも試してもらいたい」「すぐに購入を検討したい」といった声を聞き、開発メンバーは「NICUで求められている製品」だとあらためて感じました。
また、バックレストを起こしU字クッションの端をアームレストから外して巻きつけるようにすることで授乳椅子として使用できるなど、ある程度大きくなった赤ちゃんに対して“カンガルーケア以外の目的” で使用できる発展性についても確認できました。

OyaCoco(おやここ)に座るお母さん
座ったようす。U字型のクッションがお母さんを包むようになっている
OyaCoco(おやここ)の背を寝かしフラットに近い姿勢で抱っこをしている
バックレストを寝かし、フットレストを上げた状態。安定した姿勢で長時間リラックスして抱っこができる
OyaCoco(おやここ)の背を寝かしフラットに近い姿勢で抱っこをしている
布をかけ、カンガルーケアをしている様子。医療用チューブが肩口から赤ちゃんに伸びている
OyaCoco(おやここ)を女性一人で移動させている
キャスター付きで、ひとりでも楽に移動ができる

病院専用家具の開発。 「求められる機能」をカタチにする

OyaCocoの開発資料には
“ファミリーサポートチェア「OyaCoco」は、病院のNICUやGCUで使用する
初めてのカンガルーケアを安全にサポートするチェア”
と記されています。

この“安全に” という文言から、開発チームのこの製品にこめた想いが伝わってきます。
「医療・介護で実績のあるパラマウントベッドの製品として発売できたことに意味がある」と開発メンバーは語ります。
本製品を開発したTsubaki Projectの創設メンバー、岩井さんがこう話してくれました
「Tsubaki Projectには技術開発やデザインだけでなく、品質保証や研究の部署など幅広いメンバーがいます。リサーチするだけ、企画するだけ、提案するだけ、そういうプロジェクトじゃなく、本当にデザインや設計・試作、現場でのヒアリングなんかも全部やるんです。もちろんそれぞれが所属する部署の理解や協力なしにはありえないので、そのサポートは大いに心強いです。そうやって、パラマウントベッドとして世に出せる品質とデザインをしっかり担保できて初めて『よし、発売しよう』ってなるわけです」

OyaCocoという製品を見ていると、本当に細やかな工夫やアイデアが詰まっています。
・取り外せて手入れできるパーツ
・汚れにくい、医療機関で使用される消毒剤でも拭ける、などメンテナンスを考えた素材
・髪の毛がつきにくい面ファスナー
・バックレストやフットレスト角度の調整のしやすさ
このような使い勝手への配慮に加えて
・すべての角を丸める、手を挟む箇所がないなど安全性への配慮
・病院によって異なる医療チューブの取り回しに対応
・女性一人でも移動しやすいキャスター
・使用時の快適性の追求
といった、安全性や現場での運用を考慮した仕様になっています。

さらにOyaCocoで重要なのが、そのデザインです。
普段使いのリラックスチェアのような、柔らかい形状と素材選び。
購入時にクッションや座面、サイドパネルなどの色を自由に選択できるようになっていて、その選択肢の多さに驚きました。無機質ではない優しい色がカタログに並んでいて、カラーコーディネート例まで掲載されています。
「本当はもっと柔らかくてふんわりした素材も選びたかったのですが、現場では、使用後に消毒ができるかどうかが重要なポイントなので、どこを落とし所とするかには相当苦心しました」とは、開発者のひとり下田平さんの言葉です。

機能的なだけでなく、家具として安心できる環境を提供する。
安全であることを前提に、お母さん、お父さん、そして赤ちゃんが安心してカンガルーケアを行えるように、との目的が、こういうところに現れていると感じました。

「ケアを行うための機能的な椅子」と「家具として心地よい環境をつくる椅子」、両方の性格を持つOyaCocoが、これからたくさんのお母さん、お父さん、赤ちゃんをサポートする存在であって欲しいと思います。

OyaCoco(おやここ)製品資料の抜粋。使い方・手入れ・生地の色バリエーションなどがイラストや写真付きで書かれている
OyaCoco製品資料より。選べる生地や色のバリエーション、使い方やお手入れ方法が丁寧に書かれている

次回は開発者インタビューです。OyaCoco開発の試行錯誤や製品に込めた想いなどをお聞きし、また記者もお人形を使ってカンガルーケアを体験させて頂きました。