
12時間一度も便座に座っていなかった
(その1)では、介護付き有料老人ホーム「トミオ印西コスモステラス」がトイレの排泄自動記録システム「トイレDIARY(ダイアリー)」を導入した経緯について、同施設のケアマネジャー曽我敦子さんにお話しいただきました。インタビュー後半には施設長の種市勝さんにも加わっていただき、実際に施設に導入して起こった変化についてお聞きしました。
実際にトイレDIARYを導入してみて、具体的な効果や変化がありましたでしょうか?
(曽我ケアマネジャー)
はい。認知機能に衰えのある方の事例なのですが、その方の居室のトイレにトイレDIARYを設置しました。当施設ではそれぞれの個室内にトイレがあるんです。
職員は入居者様の排泄について、毎日どういう状況であったか確認します。健康管理という面でも重要ですし、便秘だと落ち着きがなくなったりといった心理的な側面もあります。さらには腸などの病気にも関わることですので、とても大切なことなんです。
トイレDIARY導入前は「お通じありました?」と職員が直接尋ねて確認をしていたのですが、認知機能に衰えのある方だとご自身がどうだったのか記憶されていないことも多いんですね。さらに、こう聞かれたら「出た」と答える方がいいのかな?
と思われる方もいて、出てないのに「出ました」と答えるケースも少なくないんです。そこで職員は、入居者様の行動やトイレの汚れ方とかを見て排泄の状況を判断していたのですが……。

円内で青く着色した部分がセンサー
(実際は白。写真加工は編集部注)
その方(認知機能に衰えのある方)は、それまでトイレを毎日されているという認識だったんですか?
(曽我ケアマネジャー)そうです。常に自分の居室と共用ルームを行き来されているし、けっこう歩き回る方だったので、当然トイレにも行っているだろうと。トイレ自体は自分で自立して行かれる方でした。つまり「トイレ支援が必要な方」ではないという認識でした。
その方の居室のトイレにトイレDIARYをつけてみたのですが、データを見てびっくりしました。朝の6時から夕方18時まで、一度も着座記録がなかったんです。
12時間もですか。その間も食事をされたり歩かれたりしているんですよね?
(曽我ケアマネジャー)そうです。私たちも「機械が壊れてるんじゃないの?」って言いながら、実際にその便器に座ってみたらちゃんと反応するんです。食堂の横にもトイレがあるので、別の職員に「トイレに入ってるの見た?」って聞いたんですが「いえ、見てないです」という答えでした。確かに12時間トイレをされていない。
これはサポートに入らないと大変だ、ということでその方の介護プランを変更して、介護職員が定期的に「トイレに行きましょう〜」と誘導する支援に切り替えたんです。
介護計画が変わったんですね
(曽我ケアマネジャー)ええ。私たちも当然、入居者様のことを気にかけて介護にあたっているのですが、自分たちだけで観察して得られる情報には限界があるんだ、ということを痛感する事例でした。特にトイレはプライバシーにも関わるので、自立してトイレに行かれる方に対して、わざわざ一緒に中に入って確認する、ということはしませんので。この事例は全職員にとって驚きでした。

入居者の状況がアイコンと文字ですぐに確認できる。
睡眠計測センサーについては(その1)を参照

職員がこうして複数の箇所で状況を確認できる

便座への着座だけでなく排泄物の状態がアイコンと文字で表示されている
入居者様が本来の自分に適した介護を受けられるという意味で、大事な情報源になっています。
トイレDIARYは着座・退座だけでなく排泄物の有無や状態もAIによってチェックしますよね
(曽我ケアマネジャー)そうですね。トイレ支援の必要のない入居者様の便の状態は、私たち職員が毎回確認しているわけではないので、導入してみて情報量という意味で大きく変わりました。
先ほどその方の行動やトイレの汚れ具合を見て、お通じがあったかどうか判断していると話しましたが、実際にトイレDIARYで記録してみると、「あれ? 違った」ということがありました。
貸し出し用のデモ機を導入してすぐのことで、まだ職員がトイレDIARYのデータを見る癖が定着していなかった時のことなんですが。夕方に必ず職員が看護師さんに入居者様について情報共有する時間があるんです。私もたまたまそこに同席していまして、その中で担当の職員が「◯◯さん排泄マイナスです」と話していたんです。看護師さんも「また今日も出てないんですね」と。
「排泄マイナス」というのは、お通じがなかった、という意味ですか?
(曽我ケアマネジャー)そうです。職員の報告では排便がなかったと。
私は導入した張本人なのでトイレDIARYをスマホで常にチェックしていましたから、「え?」と思って。
「◯◯さん出てましたよ」と。排便した通知を見ていたんです。
スマホで排泄の記録を見られるのでみんなでそれを見たら、やっぱり出てたんです。
ご本人が自立してトイレに行かれる方は職員がトイレに一緒に入ることはありません。ご本人がおっしゃることと、トイレの汚れの状態などから私たちは判断するしかなかったんです。
ご本人は認知機能に衰えのある方で……
(曽我ケアマネジャー)その方が出たかどうかお忘れのこともあるんですが、先ほども言いましたように、とっさに聞かれると「こう答えた方がいいのではないか」と相手の顔を見て正確じゃないことを答えてしまう方も多いんです。
このケースでは、私たちのそれまでの観察では「2日間排便がない」という認識だったのですが、トイレDIARYの記録では「毎日排便あり」でした。
ああ、私たちだけで得られる情報量とは差があるな、と実感しました。
こんなシステムいるの? って懐疑的だった職員も「自分たちだけで得られる情報に比べてこんなに違うんだ」と驚いていました。
情報量や正確性の差が生む認識の違いによって、入居者様へのケアが変わるということもあり得るんでしょうか?
(曽我ケアマネジャー)そうですね。さきほどの排便の有無についてですが、排泄確認ができない状況が1日であれば問題にならないケースが多いです。でももし何日もお通じがないという判断なら、看護師さんと相談してたとえば下剤を調整したりします。もし、お通じが実際にはある方に下剤を投与すると、下痢などの望ましくない症状を招くおそれもあります。
日々の健康管理の上で、トイレDIARY導入の効果は大きかったです。入居者様が一人ひとりの状態にあった介護を受けられるという意味で、大事な情報源になっています。
可視化できることで時系列的な記録として残せますし、何より職員同士や入居者様のご家族といった第三者への説明の正確さ、という面でも大きな意味がありました。
編集部注:トイレDIARYは医療機器ではなく情報提供ツールであり、入居者の状態やケアの最終判断は介護職員・看護師が行っています
可視化して情報を共有できるというのはとても重要なことですね
(曽我ケアマネジャー)ええ。そうなんです。
(種市施設長)こうやってデータが記録として残るので、入居者様のご家族への説明も明快になります。
最近のご家族の方は施設を探す段階で前もって調べられたり、自分のお考えをもって見学や相談に来られる方もいます。その際に「うちは入居者様のプライバシーや尊厳をこう考えています」「そのためにこういうシステムを使っています」というふうに説明ができるんです。そういう方々には共感を持って聞いていただいているという実感があります。
実際に入居されてからも「ほら、毎日こうして寝られています」「お通じが毎日あります」とお示しできるんです。ご家族からデータを見せてくださいと言われれば見せられます。
これは職員にとってもとても大事なことなんです。報告用の日誌を新たに作成する手間が減るということもありますが、心理的にも負担が少ないんです。

(曽我ケアマネジャー)画面がわかりやすい、というのもすごく助かっています。難しいグラフとか読み取るのに時間がかかる文章だと、結局それを元に別の報告書を作ったりしなくちゃいけない。このシステムだと誰が見てもすぐに分かるんです。
睡眠計測センサーもトイレDIARYも、アイコンと簡潔な説明で、誰が見ても明快ですよね
(曽我ケアマネジャー)通知とかをパッと直観的に理解できるのは助かります。「あ、◯◯さん起き上がった」「△△さんトイレ出た」って、日々の忙しい業務の中で、この直観的な表示はありがたいです。
あとは導入時の効果も大きいですね。若い職員ってスマホでもタブレットでも、どんどん新しいことを理解して使うんですけど、年齢層が高い職員だと最初は拒否反応になってしまうんです。その点、表示がわかりやすいというのは本当に大事で。一回使うとだいたい理解できるので、すごく助かるんです。
(種市施設長)我々おじさんでもすぐに理解できる(笑)。だからご家族にも説明できるんです。
大事なことですね
(種市施設長)特に認知機能に衰えのある方の場合、こういう分かりやすい記録データがあると、ご家族も冷静に話を聞いていただいている印象です。
(曽我ケアマネジャー)職員同士もそうかも。昔からうちはコミュニケーションをちゃんと取ってる職場だとは思うんですが、ギスギスする場面は減りましたね(笑)
(種市施設長)あまり声を大きくして言うことではないかもしれませんが、職員や運営する人間は常に「クレーム」というか、「自分の手が届かなかったからこうなったのでは」という心配と強い責任感で仕事に向き合っています。それ自体は大事なことなのですが、必要以上に恐れるあまり、やらなくていいことまでやってしまったり、本来するべき業務の時間を削ってしまったり、そういう葛藤があったのです。こういう機械が助けてくれるシステムを入れたことで、何かあれば通知が来たり、見えなかったところが可視化されて記録にも残る。このことは精神的負担という面で相当な軽減になっています。特に夜勤は人が少ないので、過度な緊張が和らいだ気がします。
(曽我ケアマネジャー)もうひとつ正直なことを言いますと、心理的というか、人間同士のコミュニケーションの話なのですが……。排泄の話って聞く方も聞かれる方も愉快じゃないですよね?
はい(笑)
家で生活していて、家族がおじいちゃん、おばあちゃんに「今日出たの?」「どのくらい?」「どんなだった?」なんて聞かないじゃないですか。
施設も同じ「生活の場」なので、もしそういう会話をしなくていいならそれに越したことはありません。実は入居者様にお通じのことを尋ねると、人によっては一瞬「うっ」という表情をされることがあるんです。トイレDIARYを入れることで、そういう会話自体が必要なくなります。これ自体が相当な変化なんじゃない?
と思います。
先ほど(前回)おっしゃってた「在宅介護の視点」で考えてみると、ということですね
ええ。こうやって機械の力を借りることで自宅での生活に近づけられるなら。そういう想いが私の中ではすごく強いので、このトイレDIARYの“見守り” はその発想にとても近いと思っています。
(その3へつづく)


