「トイレDIARY」開発。利用者の尊厳を守り、職員の負担を軽減するために。
ここまで、トミオ印西コスモステラスにトイレDIARYが導入された経緯、そして導入の効果や事例などを同施設のケアマネジャー曽我さん、施設長の種市さんにお伺いしてきました。
ここで、トイレDIARYについて開発者がどういう想いでこのシステムを作り上げたのか、紐解いてみたいと思います。
このトイレDIARY開発のリーダーを務めたのは、パラマウントベッドの三重野 勤さん。経営企画本部 ビジネスデベロップメントグループ 排泄ケアチームに所属しています。
トイレDIARYは2021年にNECプラットフォームズより発売の製品(当時の名称はNECサニタリー利用記録システム)で、2024年10月にパラマウントベッドに事業譲渡、2025年4月に「トイレDIARY」と改称しました。

リーダー三重野 勤さん
トイレDIARYのシステムは、以下の3ユニットから構成されています。
「着座と排泄物を検知するセンサーユニット」
「排泄物の状態を分析し、結果をデータ送信する制御ボックス」
「(共用トイレに限り)トイレ利用者を識別する個人識別センサー」
このシステムで「誰が」を判別し、「便器にいつ座ったか」「排泄物の内容」「いつ立ち上がったか」を判別・記録し、設置された施設の職員に通知します。
このシステムの開発動機には三重野さんの個人的な体験が大きく影響しています。
三重野さんが以前2週間入院をした際、毎日排泄のことを尋ねられ「これは聞かれる自分もうんざりだけど、聞く方だって負担だよなあ」と実感したといいます。そして、入院で感じたこの非日常は「自分が高齢者になる近い将来の日常なのではないか」と考えるようになります。
そこから高齢者施設での実情を知るために、福井医療大学に相談、福井県内の全介護施設への排泄管理アンケートを実施したことで、貴重な介護従事者の現場の声を目の当たりにすることになりました。
その中で、現場の職員と施設長など運営する側とで、利用者のトイレケアに求める想いや課題感にズレがあることにも気づきました。
職員の意見で多かったのが「利用者の尊厳を守りつつ、ケアをしたい」という声。
運営側の求めるものは「効率化による負担軽減、介護職員離職の防止」。
両者をうまく両立させる方法はないか。
通信インフラの開発に携わっていた三重野さんが、この課題に着目し開発をスタートさせたのが“センサーとAIを活用したトイレ見守りシステム”でした。もし機械が自動的にトイレのタイミングや排泄物の内容を判断し記録できるなら、そしてその過程を人間(職員)の目を使わずに行えるなら。
まさに尊厳を守りつつ、現場の負担軽減に相当な効果があるのではないか。
「国内メーカーほぼすべての便器に対応しています」
解決しなければいけない問題は数多くありました。しかし、その中でもっとも大事にしたことは「利用者の尊厳を守る」ということでした。
排泄をどうやって秘匿性を確保しつつ把握するか、取得したデータの扱いや保持の仕方について関係する機関と協議をしつつ試行錯誤が続いたといいます。
トイレDIARYは心理的負担を生じさせにくいシステムです。このシステムは利用者のトイレでの着座や退座といった行動と排泄物の情報を自動でデータ化します。システム上にはその「結果のみ」が記録され、職員の端末にはその「結果」がアイコンと文字情報で確認できます。そこに人の手は介入しません。職員が利用者のトイレ排泄に同室することなく、利用者はいつも通りにトイレを済ますだけで状態が確認できる仕組みになっています。
トイレDIARYのセンサーユニットは、既存の便器に引っ掛けるだけで設置でき、国内メーカーの便器であればほぼすべての製品に対応しています。
「なるべく多くの施設に導入してもらいたい、その想いでこういう設計を最初からしているんです」
と三重野さんは話します。

トイレDIARYの説明をする三重野さん
システムを利用した施設職員への過去の調査では、「期待効果として職員1人1日1時間の削減につながる可能性がある」という結果が得られています。
三重野さんはこう続けます。
「介護職員さんの負担の軽減、業務の効率化、これがこのシステム導入の重要な目的の1つであることは間違いないです。でも、人間として当たり前のことを、当たり前にできるようにする。それがこのシステムの本質です。テクノロジーは人の代わりをするためだけではなく、人がやらなくてもいい仕事を引き受けることで、人が“本当にやるべきこと”に集中できるよう支援する、そのためにあります」
その本質というのは、介護する側にとっても、介護を受ける側にとっても、ということですよね?
との問いに、三重野さんは「もちろんです、そもそも開発の原動力が僕の入院時の体験なんですから」と前置きしつつ、こう続けました。
「本人が“自分で出せた”とわかるだけで、自信になるんです。そんな日々を、少しでも支えられたらと思っています」

パラマウントベッド三重野(右)さん。
曽我さんが貸し出しデモ機の試用時に最初に
接触したのが開発者である三重野さんだった。
インタビューの合間にも、
使用中のトイレDIARYについて意見を交換
これからの介護施設のあり方。地域とのかかわりの中で
最後に、ケアマネジャー曽我さんに再び登場していただき、トイレDIARY導入の総括とこれからの介護施設のあり方についてお聞きしました。

みなさん表情が明るく、入居者にとって
「ここは生活の場」という言葉の大切さが伝わってくる
曽我さんは一貫して「ここは生活の場だ」と話されています。その点について、さらに取り組まれていることがあればお聞きしたいです
(曽我ケアマネジャー)まずシステム的な話をしますと、睡眠計測センサー※とトイレDIARYを統合して同じ端末で確認したり記録できる「眠りCONNECT」はぜひ入れたいなあと思っています。それがあれば本当に入居者様のためにも職員のためにも役立つと考えていて、いまあれこれ頑張っている最中です。
※睡眠計測センサー:パラマウントベッドが介護施設向けに提供する睡眠データ取得のためのセンサー。ベッドのマットレスの下に敷いたセンサーにより利用者の状態(心拍・呼吸・睡眠/覚醒/起き上がり/離床)を検知・計測する。非接触型センサーなので利用者が計測器などを身につける必要がない。「睡眠計測センサー」で計測されたデータをモニタリング・記録することが可能。(その1)
(種市施設長)そうですね。睡眠計測センサーとトイレDIARYがあれば、その方のプライベートな時間のことはほぼ網羅できると考えています。ベッドとトイレの見守りですから。それ以外は食堂だったり共用のふれあいルームだったり、我々の目の届くところにおられます。
こうやって機械の見守りと人の目をうまく組み合わせると、ほぼ入居者様の動線が繋がるので、入居者様のプライバシーを尊重しつつ、危なそうなポイントは大方カバーできる体制になると思っています。
(曽我ケアマネジャー)「生活の場」という話ですと、少し外との関わりの話になるのですが、なるべく施設と地域の方との交流を増やしたいなあと思っています。いくつかイベントをしていまして、今後もいろいろ増やしていければと考えています。
施設(トミオ印西コスモステラス)のウェブサイトを事前に見させていただいたのですが、「夏まつり」の記事がありました
(曽我ケアマネジャー)それです!
実は今までは施設内だけで射的とかヨーヨー釣りとか夏祭りをやっていたのですが、ちょっとずつ大きくしていって、地域の方とも関わりたいなあと思いまして、今年は系列の保育園と共同で開催したんです。いきなり地域に解放、というのもハードルが高いし職員も大変なので、今年はまず第一段階として子どもたちを呼んでボランティアさんにも手伝ってもらいました。
この施設の中を地域の人に見てもらう、ということも大事に考えてます。たとえば「介護付き老人ホームがここにありますよ」と言われても、中で何やってるの? って知らない方がほとんどだと思うんです。私自身訪問介護をやっていたのに、ここに入職する前はどういう施設かよく知らなかったんです。それじゃいけないなあって。
「生活の場」なのに
(曽我ケアマネジャー)そうです。閉じたいわけじゃないんです。この中でみなさん普通に「日常生活」をされているんです。
例えば震災とか何かあった場合に、地域の方々の助けを私たちも受けないといけない。そういう時に「どういう人たちが何をやっている施設か分からない」のと「ああ、あそこね」というのでは状況が変わってくると思います。逆に、私たちの専門的な知識や経験を地域に活かすこともできるんじゃないかと。たとえば、地域の方の介護の悩みに答える相談会とか、情報提供もできますよ、とアナウンスするようにしています。そういうお互いの交流がどんどんできる、そういう状況になればいいと思っています。
本日、いろいろなお話を聞かせていただきました。どの話にも共通するのは「人が人らしく生活をする」、「そのためには何ができるのか?」ということだったと思います
(曽我ケアマネジャー)こういうのって誰か一人が頑張ってやっても、みんなが続かないとうまくいかないと思います。睡眠計測センサー、トイレDIARYの導入でもそうでしたが、こういう目的で、こうやったらお互いうまくいくんじゃない? とみんなで想像してチャレンジしてみて、ああうまくいったと、そうやって広がっていくものだと考えています。
本日はありがとうございました


