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2025.05.26 UPDATE!
WELL-BEING for children

「中学生向け睡眠教育プログラムの教材監修」
木暮睡眠研究所所長インタビュー

中学生が「睡眠の大切さを学ぶ」授業。そのための教材パッケージをパラマウントベッドが監修し、2022年の開始以来、2025年3月までに延べ7万人以上の生徒が受講しました。この授業用教材を監修したパラマウントベッド睡眠研究所の木暮貴政(こぐれ・たかまさ)所長にお話を伺いました。
(このプログラムの紹介記事はこちら

授業の場面と目的に応じたデータ形式

中学生向け授業の教材、と聞いた場合どういうものをイメージするでしょうか?
紙の教科書やプリント、タブレットなどで閲覧する電子書類、プロジェクターに投影されるスライドや映像など、最近の授業では多種多様なツールが教材として使われています。
実は、パラマウントベッドが監修した「中学生向け睡眠教育プログラム」の教材には、複数のファイル形式のデータがパッケージとして含まれています。パッケージの内容を目的ごとに一覧にしてみます。

<先生用>
・授業概要資料(テキストデータ)
・進行台本(PDF)
・投影用スライド(PowerPointデータ)
・投影用動画 × 2本(動画データ)

<生徒記入用>
・記入用ワークシート(PDF→紙に印刷して配布)
・アンケート(PDF→紙に印刷 または webアンケート用QRコード/URL)

<家庭用>
・睡眠だより(PDF→紙に印刷して配布)

多様な教材のスクリーンショット
教材は、印刷用PDF・スライド・動画など、目的に応じたいくつかのファイル形式で用意されている

50分1コマの授業の、それぞれの場面と目的に応じたファイルが用意されており、先生はそれを使って授業を進めていきます。
スライドを映しながら先生が台本に沿って話し、質問を投げかけ、生徒はそれに答え、解説動画をみんなで見、生徒がワークシートを使って考えたり記入する時間があり、それについてまた先生が質問をし・・・、という具合に授業は進行します。先生用の台本や、コメント(注釈)付きのスライドデータも用意されており、先生が授業をスムーズに進められる工夫、生徒が飽きずに「自分の睡眠について」考えられる工夫がされています。授業が終わった後には、生徒の家庭に向けた「睡眠だより」が用意されています。

このように複数のファイル形式を使い教材を組み立てた狙いはどこにあるのでしょうか?
また、この教材パッケージを通して生徒たちに伝えたかったことは何なのでしょうか?
教材を監修された睡眠研究所の木暮所長にお伺いしました。

インタビューにこたえるパラマウントベッド睡眠研究所の木暮貴政所長
「睡眠授業」についての話をお伺いした、パラマウントベッド睡眠研究所の木暮貴政所長

「とにかくまずは50分1コマで、一番大切なことを伝える」

最初に目についたのは教材のファイル形式の豊富さです。紙、スライド、動画など。また、一つの完パケ(完全メディアパッケージ)ファイルではなく、複数のデータに分かれているのも特徴的だと感じました

教材をどういう形式にするかよりも、まず先に考えたのが、50分1コマの授業の範囲で「中学生の睡眠にとって大事なこと」がどうすれば一番伝わるのか、ということでした。50分で伝えられる内容は限られてきます。ただ睡眠の知識を話すだけではなく、「良い睡眠」がなぜ必要で、それを取るためにはどうすればいいのか、ストーリーをきちんと立てて伝えることが大事だと思いました。
「睡眠の質を高めましょう!」と言っても、それがいったい何を指すのか。具体的に彼らの生活のどこに着目し見つめ直すべきなのか。大人はよく「睡眠の質を高めましょう」と言うのですが(笑)。それは「どうにか短い時間で効率よく睡眠を取りたい」という願望の裏返しなところがあって。そうではないですよ、と。
われわれ睡眠研究所が「良い睡眠」にとって一番大事に思っているのは「量」、そして「満足感」です。「量」と「満足感」を得るには日々どういうことに気をつけなきゃいけないのか。そこに的を絞って内容を考えてました。生徒たちが飽きずに、興味を持ち続けて授業が受けられるように、このプロジェクトの企画部署(現広報部)や協力会社と何度もやり取りをして工夫をしました。

なるほど。だから「中学生の睡眠時間、何時間必要?」というスライドから授業が始まるわけですね。

なにより「量」つまり睡眠時間をちゃんと確保していますか、と。一番考えてほしいことを一番最初に持ってきています。まず先生がスライドで質問を投げかけて、それに生徒が答える。正解としてはっきり約9時間と表現したのも、伝えたいことを明確にする目的です。もちろん個人差や年齢によって違いがあることは追って説明はするのですが、まずは「9時間寝てますか!?」「あなたはどうですか?」と。
こうして自分の睡眠時間についてしっかり目を向けたところで、では次に・・・、といった具合に授業が進んでいきます。

授業の進行台本の一部。各スライドごとに丁寧に意図やセリフが書かれている
進行台本の一部。「中学生の睡眠時間、何時間必要?」という設問から授業が始まる

スライドで理解が進んだら、次にワークシートに生徒自身が書き込む時間が設けられています。ここは事前に書いておく学校や、その場であらためて考えて書き込む学校など、先生によっていろんな段取りがあるようです

スライドを通して先生と生徒のやり取りがあるとはいえ、受動的に話を聞いているだけでは生徒は自分ごととして睡眠を捉えづらいかもしれません。そこで生徒が自身の睡眠について振り返ったり、どうすれば良い睡眠が取れるかなどを書いていく。ここで自分が書いた内容とスライドや動画との “答え合わせ” が気づきや発見につながり、ひいては行動変容につながると思っています。

この授業プログラムでは前半と後半の2回、動画を全員で見ますよね? 実はこのプログラムのとある授業を参観させてもらったのですが(次回掲載予定)、ちょうどいいタイミングで少しコミカルな動画を全員で見る。長さも1本目-7分、2本目-5分30秒とわりとコンパクト。質問などで一度ざわざわした教室がここでピッとまた集中モードになって、興味を持続させるなかなかうまい工夫だなあと思いました。この動画で少し「睡眠科学」に踏み込んだ話になりますね?

そうです。少し専門的な知見の話になります。とはいえ動画でもあまり研究の詳細や用語には深入りせず、あくまで睡眠の「量」と「満足感」を大事にしましょう、そのためには規則正しい生活が重要です、というテーマからは外れないようにしています。そして「睡眠が足りないとこういうネガティブなことがありますよ」という事例や「良い睡眠をとるための10のポイント」といった具体的に気をつけるべきことを伝えています。

この動画パートで、もう少し「レム睡眠」や「ノンレム睡眠」といった、現代人がなんとなく気にしているワードについての説明があるのかな? と思いましたが、そうではないですね。そこには意図があったのでしょうか?

いろいろ情報を入れすぎると、本当に伝えたいことがマスキングされるかな? という懸念がまずありました。そして、もうひとつ大事なのは「中学生たちが良い眠りを考える時に、そこまでの知識は必要なのか」ということでした。繰り返しになりますが、われわれが一番伝えたかったのは、ちゃんと「量」×「満足感」を確保しましょう、ということと、そのために日々の生活で気をつけなきゃいけないのはこれですよ、ということです。動画の中で “浅い眠りと深い眠りを繰り返す” ことは描いていますが、その医学的意味や名称に深入りするとミスリードが起こるかな? と。
背景となる知識はもちろん重要ですが、それをどう活用するのか、日々気をつけるべきは何なのか。この短い授業では、「レム睡眠とは何か」を伝える前に、「毎日同じ時間に起きましょう」の方を伝えたいんです。

もし興味が沸けば、自分で何でも調べられる時代でもありますしね

そうですね。そういう興味への入り口になってくれるのは大歓迎です。

授業に使われる図や表すべてに出典が書いてあるのは、そういう意図もあるのかな? と思いました

まあ何を根拠に、っていうのを明確にしたかったのと、あとは理論や情報が更新されたときに教材をアップデートできるように、という意図ですね。出典を明確にしておくとわれわれも対応がしやすいです。先生にとっても根拠がある図の方が使いやすいと思いました。

先生へのアンケートの抜粋。先生の満足度が非常に高い結果となっている
先生へのアンケートより。「先生が授業しやすい教材」というのも重要なポイント

中学生の良い睡眠には、本人以外の協力も必要!

前回の記事(「睡眠で明日が変わる!中学生向け教育プログラム」)で “なぜ中学生を対象にしたのか” について触れたのですが、あらためて木暮所長にその理由をお伺いしたいです

幅広く、なるべく若いうちに睡眠の大切さを知ってもらいたい、と考える中、生活リズムが大きく変わる中学生が良いのではないかと思いました。スマホを持ち始め、塾や習い事で帰宅時間が遅くなる、また勉強や自分のやりたいこともぐっと増え、夜更かし要因がぐっと増えるんですね、中学校に上がるタイミングって。
「睡眠負債」という考え方があるのですが、本来取るべき睡眠時間に対して足りない分、つまり負債がどんどん体に溜まっていくという意味で、負債に気づくことが難しいんです。そうは分かっていても大人って平日なんとなく睡眠が足りてなくて週末は朝寝坊、みたいになりがちですよね?
実はデータ的には小学生までは平日と休日の睡眠時間の差があまりないんですが、中学生から顕著に差が出はじめる。これは良くない。まさにこの授業で、中学生の生徒さんに対し「毎日規則正しい生活が大事」という言葉で伝えていますが、この「毎日」というのは当然休日も含むんです。

一般的な「睡眠科学」の話ではなく、中学生向けに特にフォーカスされた点などはありますか?

まず先ほどの「睡眠は9時間必要」というのはまさにこの年代の彼らに向けたメッセージです。あとは、実は大人のわれわれが睡眠について気になっていることってそこまで重要ではないんです。中学生にとっては。

具体的にどういうことでしょうか?

大人の睡眠の悩み、例えば「トイレに何回も起きてしまう」「いびき」「寝言」「睡眠時無呼吸」「むずむず脚症候群(足がむずむずして眠れない)」などは、若い彼らはまずは気にしなくていいんです。大人向けだとそういう睡眠の障害や病気の話になるかも知れませんが、そうではなく「いかにちゃんと寝るか」と「そのための生活習慣」にフォーカスしています。伝えたいことがシンプルなんです。
あとは、「じゃあ眠らないとどうなるか」、そこを盛り込もうと。だからお肌のことや太ること、そして眠りと起きている時のパフォーマンス関係の話を盛り込みました。

先生や家族も一緒に考える

教材の最後に、ご家庭向けの「睡眠だより」が用意されています。これも面白いなと感じました

これは睡眠研究所から「家庭用の配布資料があった方がいい」と要望しました。

この「睡眠だより」は、授業内容の紹介にはじまり、良い睡眠に必要な要素がイラスト入りで書かれていたり、良い睡眠のための生活習慣の提案など、簡潔にわかりやすくまとまっていますね

実は子供たちって、学校で習ったことをあまり家で話さない気がします。でもこういうもの(睡眠だより)があれば家庭で話すきっかけになると思いました。話すことで自分ごとになる。自分で考える、自分で見つめ直すきっかけになればと思いました。そして、このプリントの内容って実は親御さんたち大人にとっても興味がある内容だと思うんです。どうすれば「良い睡眠」が取れるのか。一緒に考えられる問題だと思います。

とても重要なことだと思いました。例えば勉強なんかでも、誰か人に教えると突然理解できたりします。話すって大事ですよね。そういえば前回にお話を伺った広報部(当プログラムの企画)の小柴さんも「このプログラムが親子で話をするきっかけになって欲しい」とおっしゃってました

そもそも子供の睡眠って家庭環境の影響が大きいんです。生徒さんに向けて「こうしましょう」と呼びかけつつ、親御さんの協力がとても大事だと思います。例えば睡眠だよりにも載せた10ヶ条(注:良い睡眠をとるための大切な10のポイント。下写真参照)についても、夕食の時間のことなど、家庭の理解や協力が必要なものがあります。それを伝えたかった。

家庭配布用の「睡眠だより」の抜粋。授業内容の要約や、良い睡眠のための生活習慣について書かれている
家庭向けの「睡眠だより」より。授業内容の要約や、良い睡眠のための生活習慣について書かれている

なりたい自分になるために

この授業プログラムはとても大切な内容で、中学生以外の人にも受けてほしいと思いました。今後、対象を広げるなどの予定はあるのでしょうか?

この教材自体は中学生向けなので、これを他に展開する予定はありませんが、同じビデオをパラマウントベッドの新入社員に見せたりはするんですよ。わりとウケてました(笑)。
あとは、先ほどスマホの話をしましたが、スマホに触れる年齢がどんどん低年齢化しています。もう少しスマホのことを盛り込んだり、あとは小学生を対象に、などを考える時かもしれません。

スマホのブルーライトの影響、などでしょうか?

その話も大事ですが、どちらかというと「中毒」「依存症」みたいな文脈になるのかなあと感じています。大事なのは睡眠に関する知識ではなく、やっぱりどう規則正しい生活をするのか、どうやって睡眠時間と満足感を確保するのか、という話になると思います。

なるほど。木暮所長が先ほど言われた「レム睡眠とは何か」の前に「毎日同じ時間に起きましょう」を伝えたい、まさにそこですね

結局いちばん伝えたいのは「時間の使い方をちゃんとしよう」ということなので。
それがなりたい自分になるためのキーになるんです。この授業が、「なりたい自分」になるための意識と行動変容を促すきっかけになって欲しいと思っています。

授業後、生徒へ取ったアンケートの抜粋。行動変容の具体的な内容が記載された表
授業後の生徒へのアンケートより。この授業が意識・行動変容のきっかけになっている