国が問いかける「介護の生産性向上」:事業の概要
厚生労働省の「介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定事業」とは。
介護人材不足が深刻化するなか、介護テクノロジーの活用等により、職員の業務負担軽減を図るとともに、ケアの質向上につなげることができるかを科学的に検証する注目の事業です。
介護施設等における効果実証を実施し、実証から得られたデータの分析、生産性向上の取り組みの推進に資するエビデンスの収集・蓄積を行うものです。ここで得られたエビデンスは、本事業の報告書や「介護テクノロジー等のパッケージ導入モデル(改訂版)~介護テクノロジー取組事例集~」等で、介護事業所等の参考となるよう事例が公開されます。
生産性向上の取り組みに意欲的な介護事業者やテクノロジー開発企業等から、取り組みの目標や具体的な内容の提案を受け付け、その中から効果が高いと見込まれる取り組みを採択。採択された事業者や企業は実際に取り組みを行い、ケアの質の確保や職員の負担軽減等の観点から効果実証を実施します。
採択の基準:「利用者の生活向上」と「業務効率化」の両立
令和7年度の採択の審査は、単なる技術の先進性ではなく、以下の観点で総合的に評価されました。
- 利用者の生活の維持・向上と介護業務の効率化・職員の負担軽減を図る積極的な意向があること
- 取り組みの目的(実現したい利用者の生活の維持・向上と業務効率化)が明確であること
- 介護オペレーションの変更内容が明確かつ効果的と想定できること
- 複数の実証フィールドで同一の手法による実証が実施される提案であること
- 他テーマと重複しない新規性が認められること
- 実証フィールドが事業目的の達成に有効と認められること
厚生労働省「令和7年度 介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定事業 報告書 (III/III)」(令和8年3月)より
結果として12法人・13提案が採択。そのうちパラマウントベッド株式会社からは2テーマ、また、パラマウントベッドのテクノロジーを実証フィールドとして採用した社会福祉法人友愛十字会の提案も採択されており、実質的にパラマウントベッドの技術基盤が3つの取り組みを支える形となりました。
採択された3事業
① 「覚醒状態に応じた起床によるセルフケアや朝食の自立支援」
パラマウントベッド株式会社(実証No.9)/特定施設1か所・介護老人福祉施設1か所
介護施設の朝の時間帯は、多くの利用者が一斉に起床・整容・朝食という流れをたどります。しかし、人間の睡眠・覚醒リズムには個人差があり、まだ深い眠りの状態にある中で無理に起こされてしまうと、利用者本来のセルフケア(洗顔・着替えなど)や朝食に対する意欲・能力が十分に発揮されない場合も少なくありません。
そこで、「睡眠計測センサー」と「見守り支援機器」を活用して利用者の覚醒状態をリアルタイムに把握し、自然な覚醒タイミングに合わせた起床支援を実施。利用者が本来持つセルフケア能力(洗顔・着替え・食事など)を発揮しやすい状態が整い、その結果として能力が十分に引き出され、さらに朝食時における誤嚥リスクの低減や食事動作のADL向上へとつながった事例が確認されました。職員の「定時の一斉起床介助」からの解放と、利用者の自立支援を同時に実現する取り組みです。
※ADL:Activities of Daily Livingの略。食事・入浴・更衣・排泄など日常の生活動作のこと
② 「介護支援専門員のモニタリング業務の生産性向上」
パラマウントベッド株式会社(実証No.12)/居宅介護支援事業所4か所
ケアマネジャーには月1回以上の利用者宅モニタリングが義務づけられていますが、限られた訪問時間の中で利用者の日常の状態や生活状況を十分に把握することは容易ではありません。
本事業では「睡眠計測センサー」を活用し、利用者の睡眠状況や生活リズムを客観データとして蓄積することで、訪問前の情報収集やケアプラン作成の効率化を図りました。居宅介護支援事業所4か所での実証を通じ、在宅ケア現場での活用事例やエビデンスが積み重ねられました。
③ 「排泄パターンの把握による排泄ケアの生産性向上」
社会福祉法人友愛十字会(実証No.7)/介護老人福祉施設2か所
排泄介助は介護職員・利用者ともに身体的・心理的負担が特に大きい業務です。あらかじめ決められた時間にトイレへ案内し排泄を促す「定時誘導」に代わり、トイレ入室者を自動で識別し、排泄物の色や形状を記録する「自動排泄記録システム」の導入により、個々の利用者の排泄パターンを科学的に把握。適切なタイミングでのトイレ誘導を実現し、職員の無駄な動きを削減しながら、利用者の尊厳あるケアの提供を目指しました。介護老人福祉施設2か所での実証を通じ、現場に即した運用モデルの確立に取り組みました。
ウェルビーイング文脈における社会的意義
これら3事業に共通しているのは、「生産性向上」を目的としながらも、その本質が「人間らしい介護の実現」にあるという点です。
覚醒に合わせた起床支援は、利用者が「決まった時間に起こされる生活」から「自らのリズムで起きる生活」 へと変わることを支えます。
ケアマネジャーのモニタリング業務効率化は、本来の仕事である「利用者と向き合う時間」の確保を意味します。
排泄パターンの把握は、利用者の尊厳—「失敗しない」「自分のタイミングで」—を守ることにつながります。
パラマウントベッドの技術を活用した3つのプロジェクトで示されたのは、ベッドを起点としたセンシング技術が、施設介護から在宅介護、直接ケアから専門職支援まで幅広く応用できるという可能性です。
今回の国による効果測定は、こうした取り組みの科学的な有効性を検証する重要な機会となりました。報告書の知見が介護現場に広く還元され、テクノロジーと人のケアが融合した「人を中心に置いた介護」の実現に向けた一歩となることが期待されています。
研究成果を「新たな価値づくり」につなげる!
これらの事業を担当したのは、パラマウントベッド経営企画本部 プロダクトマーケティンググループ 研究チーム 奥 俊介さん、経営企画本部 ストラテジーグループ 制度・業界チーム 小澤 卓矢さん、経営企画本部 プロダクトマーケティンググループ 介護チーム 巖 英二さんです。
代表して、奥 俊介さんにプロジェクトに込めた思いや取り組みについて話していただきました。
今回の実証では、在宅介護と施設介護、それぞれの現場で「睡眠計測センサー」がどのように役立てられるかを実証しました。
在宅介護での実証では、ケアマネジャーの業務負担軽減に着目しました。利用者の生活状況を把握するためには、訪問や関係者へのヒアリングなど、多くの時間と労力が必要になります。「睡眠計測センサー」を活用し、利用者の睡眠状況や生活リズムを客観的に把握できるようになることで、ケアプラン作成業務の効率化や、利用者の状態に応じた質の高いケアサービス提供につながった事例などが確認されました。
施設介護での実証では、「起床・朝食介助」に着目しました。利用者の覚醒状態に合わせた起床・朝食介助を行うことで、職員の身体的・心理的負担軽減だけでなく、利用者の誤嚥リスクを低減でき、食事動作のADL向上につながった事例などが確認されました。
今回の実証にあたっては、現場職員の皆様に取り組みの意義をご理解いただくことに大変苦労する場面もありました。「なぜこんな実証をやる必要があるのか」「テクノロジーより、人が利用者を見ることの方が大切ではないか」——。協力いただいた事業所スタッフの皆様からは、そのような率直な声も聞かれました。
それでも、早朝に施設に伺って一緒に起床・朝食介助の様子を確認したり、実際にケアマネジャーの方々と自転車で利用者宅を訪問して、「睡眠計測センサー」の設置や説明を進めたり、現場職員の皆様と何度も対話を重ねながら、「より良いケアを支えるために「睡眠計測センサー」を活用したい」という想いを少しずつ共有できるようになり、事業所の皆様にも取り組みの意義をご理解いただきながら実証を進めることで、今回の結果につなげることができました。
今回の活動を通じて改めて感じたのは、介護テクノロジーは、機器だけでは成り立たないということです。現場で働く方々の経験や想いがあってこそ、本当に役立つ活用方法が見えてきます。
これからも、現場の皆様と一緒に悩み、考えながら、「睡眠計測センサー」をはじめとする介護テクノロジーの可能性を、実証やエビデンスという形で積み重ねていきたいと考えています。そして、現場で生まれた気付きや成果を、新たな価値づくりにつなげていくことで、"より良い介護"を未来の当たり前にしていく。それが、パラマウントベッドの挑戦です。



